日本には雅楽という古来から伝わる音楽があり、神社では祭典の際に演奏され、祭典をより荘厳なものとします。
また、雅楽の中でも最も有名な曲目の一つである越殿楽は正月になると様々なところで流されているため、普段神社に行く機会がなくても耳馴染みがあるという方は多いと思います。
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目次
雅楽とは古代中国を起源とする管弦・舞楽・謡物と国風歌舞からなる音楽
雅楽は管弦・舞楽・謡物に分けられます。それぞれの内容を紹介します。
管弦とは複数の楽器を用いた合奏のこと
管弦とは歌や舞を伴わない複数の楽器を用いた合奏のことです。オーケストラのことを管弦楽団と呼びますが、これは雅楽に由来しています。
管弦で演奏されるのは唐楽の楽曲です。
管弦で用いられる楽器についてはこの後で紹介します。
舞楽とは雅楽の楽曲を伴奏とした舞
舞楽とは演奏に合わせた舞を伴う音楽であり、唐楽と高麗楽の楽曲が用いられます。
舞には右方・左方の分類があります。
舞楽についてのこちらのページにまとめておりますので、詳しく知りたい方はぜひご覧ください。
謡物とは民謡や漢詩に雅楽器の伴奏をつけた声楽曲
謡物とは古来から日本に存在した民謡や漢詩に伴奏をつけたものであり、平安時代初期に誕生したとされています。
国風歌舞は古来から日本に伝わる歌舞で人長舞・東遊・大和舞・久米歌・五節舞・誄歌などがある
国風歌舞は古代から伝わる日本独自の歌舞を基本としたもので、日本古来の神楽笛や和琴などの和楽器を用いて奏されます。
儀礼的なものであり、神様への奉納のために演奏されています。
浦安の舞は国風歌舞を参考に、昭和天皇御製を歌詞にした神楽舞で扇舞と鈴舞で構成される
最も多くの神社で用いられている神楽舞の一つに浦安の舞が挙げられます。
以下の昭和天皇の詩歌を歌詞に用いています。
天地の神にぞ祈る朝なぎの海のごとくに波たたぬ世を
浦安の舞は昭和15年の皇紀2600年奉祝会に合わせて作られたものであり、かなり新しい歌舞となっています。
神楽笛・篳篥・箏・尺拍子・太鼓で演奏され、扇を用いた扇舞と鈴を用いる鈴舞で構成されます。
浦安の舞は2周演奏され、前半が扇舞、後半が鈴舞となりますが、鈴舞のみ演奏される場合も多くあります。
雅楽の起源と古代中国・日本での歴史
雅楽は古代中国で発生し、その単語は孔子の『論語』に初めて登場します。
鄭声の雅楽を乱るを悪む。
現代語訳:音楽で言えば、 卑俗な鄭の国 の音楽が耳に入ることで、正しい雅楽が乱されるのは、悪しきことだ
鄭声とは地方の淫らな音楽ということを表し、これに対する語として雅楽という言葉が用いられている。
雅楽というものは高貴な音楽と考えられており、儒教思想を反映し、祭祀で用いられる音楽であり、政治的なものという側面も有していました。
古代中国で発生した雅楽は東アジアの国々へ広まり、それぞれの国が独自の文化や感性に基づいて受け継がれていきました。
日本の雅楽曲は起源の違いから中国・インド、ベトナム由来の唐楽と朝鮮半島由来の高麗楽に分類できる
日本の雅楽の楽曲はその起源から中国・インド・ベトナム由来の唐楽と朝鮮半島由来の高麗楽に分類されます。
唐楽には管弦と舞楽があり、高麗楽には舞楽の楽曲のみが現存しています。
平安時代・明治時代の大きな改編を経て独自に受け入れられた日本の雅楽の歴史
古代中国で発生した雅楽ですが、日本の雅楽の原型となったのは唐代のものであると考えられます。唐代の宮廷宴楽として用いられていた雅楽を日本人の習慣や感受性に併せて改編し現在の形になりました。
ここからは雅楽改編の歴史を紹介するよ
【雅楽改編の歴史①】仁明天皇の御代に楽舞は右方高麗楽・左方唐楽に分けられた。
まず初めに雅楽の大改革が行われたのは第54代仁明天皇の御代、平安時代のことです。
この時代に音楽理論を簡素化し、唐楽を中心に六調子にまとめるとともに、楽器編成を整理し、阮咸・五弦琵琶・尺人・大篳篥などを除外しました。
また、楽舞は左方と呼ばれる唐楽と右方と呼ばれる高麗楽に分けられました。
日本で古来から続く伝統的な音楽である雅楽の構成
雅楽の曲は様々な分類から構成されています。
ここからは六調子と序破急という構成上の分類について紹介します。
【雅楽の楽曲の構成】壱越調・平調・双調・黄鐘調・盤渉調・太食調の六調子と呂律
雅楽の楽曲には六調子と呼ばれる分類があり、壱越調・平調・双調・黄鐘調・盤渉調・太食調に分けられます。
それぞれの調子によって基調となる音や特徴的な節回しがあります。
演奏会や祭典ごとに用いられる楽曲の調子は揃えられることがほとんどで、調子によって印象も変わってきます。
【呂律とは】六調子は呂と律の2種類に分けられる
呂と律は西洋音楽で言うところの長調と短調です。呂(長調)は明るい印象、律(短調)は暗い印象を与えます。
呂とは陰の特性を持つ調子で壱越調・双調・太食調がこれにあたる。
壱越調は弦楽器と管楽器の音階が異なることが特徴で、壱越すなわちD(レ)の音を基調として構成される楽曲です。
代表曲:蘭陵王、賀殿、迦陵頻
双調はほとんどが壱越調からの渡物(わたしもの)からなる楽曲です。渡物についてはこの後で紹介しています。双調すなわちG(ソ)の音を基調として構成されており、春に吹かれることが多いです。
代表曲:酒胡子、春庭楽
太食調は平調すなわちE(ミ)の音を基調として構成されています。
律に属する平調と調子自体は同じなので注意が必要です。
代表曲:長慶子、抜頭
律は平調、黄鐘調、盤渉調からなる
平調は平調すなわちE(ミ)の音を基調として構成されており、雅楽を始める人はまずこの調子から練習することがほとんどです。
秋に奏でられることが多い調子ですが、結婚式の他、多くの場面で演奏されるので聞いたことのある楽曲も多くあるかもしれません。
代表曲:越殿楽、五常楽
黄鐘調は篳篥が最も高い音を奏出る一方で、笙は最も低い音を奏でることから非常に印象的な曲調をしています。
黄鐘すなわちA(ラ)の音を基調としており、夏に奏でられることが多い調子です。
盤渉調は盤式すなわちH(シ)の音を基調としている調子で、冬に奏でられることが多い調子ですが、現代では葬式や慰霊祭などで用いられることが多くなっています。
雅楽に由来する呂律が回らないという言葉の意味
現代でも呂律が回らないという言葉が用いられますが、この言葉は雅楽の用語に由来しています。
呂と律の表現がうまく行かないことを「呂律が回らない」と言ったのが、転じて言葉の調子が外れた様子を「呂律が回らない」と言うようになりました。
渡物とは楽曲を移調させたもの〈平調だけでなく盤渉調・黄鐘調にも存在する越殿楽〉
最も有名な楽曲であろう越殿楽は平調に分類されていますが、越殿楽という名前の楽曲は平調の他にも黄鐘調や盤渉調にも存在しています。
これは楽曲の調子を変化させて演奏しているためです。移調というとキーを変化させているだけと考える方も多いと思いますが、それぞれの調子には特有の節回しがあるので旋律が大きく変わり、元の形はあまり残っておらず、意識して聞かなければ移調前の楽曲は分かりません。
また、移調は呂は呂の調子内で、律は律の調子内でしかできません。段落冒頭でも紹介した通り、越殿楽は律の調子である平調、盤渉調、黄鐘調でのみ演奏されます。
雅楽の楽曲は序破急の3部で構成される
次に、序破急という分類について紹介します。
雅楽の譜面の楽曲名を見ると五常楽急や胡飲酒破など序・破・急という言葉が多く用いられています。
これは分かりやすく起承転結という言葉に言い換えることができます。
序とは緩やかな導入部分、破は変化に富んだ展開部分、急は結びに向けた軽快な部分のことです。雅楽の楽曲は序破急からなりますが、時代の流れとともに各部分が消失していき、3部全てを備える楽曲は五常楽や蘇合香などで、非常に少なくなっています。
当曲の前に演奏される音合わせの音取は現代では各楽器の見せ場と認識されている
雅楽では楽曲の合奏前に音取という曲が演奏されます。これはオーケストラでいうチューニングの役割を持っています。ただし、音合わせ自体が一つの曲になっているという点がオーケストラとは異なります。
音取はこれから始まる曲の雰囲気を表す曲になっており、笙、篳篥、笛と順に演奏に加わり、順に抜けていくという構成です。
ソロのパートが多いことから、現代では音合わせでありながら各楽器の見せ場とも考えられています。
雅楽で用いられる楽器は吹き物、弾き物、打ち物の3分類8種
雅楽で用いられる楽器は8種類あり、これらは吹き物、弾き物、打ち物に分類されます。
【吹き物】①唯一和音を出す笙〈天の声〉
笙は唯一和音を奏でる雅楽器です。17本の竹管からできており、火鉢や電熱器を用いてリード内の水分を飛ばして鳴らします。17本の竹管の内、日本の雅楽では15本のみを用います。
笙の雅な音は天の声を表すと言われており、雅楽を始める多くの方が笙に憧れを持ちますが、最低でも10万円、竹でできた本管は100万円以上の価格です。
【吹き物】②篳篥は最も大きな音が鳴り主旋律を担当する〈人の声〉
篳篥は最も大きな音を奏でる雅楽器で、主旋律を担当します。
篳篥は舌と呼ばれるヨシ・葦で作られたリードを竹の管につけて奏でられます。舌はお湯や緑茶につけて湿らせることで舌が開き、音を鳴らすことができるようになります。
篳篥の奏でる音は大地の人の声を表すと言われています。
【吹き物】③龍笛は広い音域を持つ横笛〈龍の声〉
龍笛は息を吹き込む歌口と7つの指孔のある横笛で、広い音域を持ちます。同じ指の押さえ方でも息の吹き込みによって責と和と呼ばれる高低の音色を操ることができます。このように高低の音程を自在に行き来することができる様子から龍笛の奏でる音は龍の声を表していると言われています。
また、雅楽で用いられる横笛には龍笛の他に神楽笛と高麗笛があり、それぞれ神楽歌の伴奏、高麗楽で用いられます。
【弾き物】①琵琶はリズムをつける楽曲に雅楽器
弦楽器である琵琶はギターのような形をしていていますが、旋律を奏でるのではなく局所でリズムをつける用途で用いられます。
舞楽では用いられず管弦のみで用いられます。
【弾き物】②箏は13本の弦を用いる弦楽器で琴とは区別される
箏は「こと」とも呼ばれますが、厳密には琴とは区別される雅楽器です。弦は13本あり、爪の形や弦が琴より太く作られています。
【参考】日本最古の楽器で国風歌舞で用いられる和琴
和琴は古事記にも記されている日本最古の楽器で、弥生・古墳時代の遺跡からも出土からしています。
中国由来の筝とは形状が異なり、弦の数は6本です。
用いられる場面も異なり、和琴は国風歌舞の伴奏で用いられる。
【打ち物】①太鼓は図(ズン)と百(ドウ)で音楽の節目を示す際に用いられる
管弦では釣太鼓(がくだいこ)という枠に吊り下げられた太鼓を用います。軽く打つ図と強く打つ百を使い分けて音楽の節目を示すために用いられます。
【打ち物】②鞨鼓は指揮者の役割を持つ鼓
鞨鼓は曲の始まりや終わり、曲の速度を操る指揮者のような役割を持っています。管弦と唐楽の舞楽で用いられます。
【打ち物③】鉦鼓は太鼓や鞨鼓の音を装飾する金属製の打楽器
鉦鼓とは太鼓や鞨鼓の音を装飾する金属音の鳴る楽器です。
唯一の金属製の雅楽器で金属部分を摺るように鳴らします。
【打ち物④】高麗楽で用いられる三の鼓
管弦や唐楽では鞨鼓が用いられるということを紹介しましたが、高麗楽では鞨鼓の代わりに三ノ鼓が用いられます。
鞨鼓と似たような役割を持ちますが、連打をしない点が異なります。