現在、日本の神話を読むとなったら一番の選択肢に挙がるのが古事記で、多くの人が古事記の現代語訳やマンガ、ライトノベルを読んでいると思います。
しかし、古事記と日本書紀では日本書紀が正史という立場にあるということに疑問を感じるという人もいるのではないでしょうか。
今回はなぜ日本書紀という正史がありながら現代の人々は古事記読むのか、古事記と日本書紀の歴史と本居宣長の存在に注目しつつ解説していこうと思います。
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目次
古代から中世までのポピュラーは日本書紀だった
日本書紀は六国史という日本の正史を記した歴史書とされており、これは朝廷では平安時代ごろまで20年毎にエリート官僚を対象とした日本書紀の講習会が行われていたという記録が残されていることからも理解できます。
また、日本書紀の形式からも重要視されていたことは説明できます。詳しくは古事記と日本書紀について解説したこちらの記事をご覧ください。
様々な理由から中世までの日本人は日本の古代の姿を学ぶ際には日本書紀を用いていたのです。
松阪の医者兼国学者 本居宣長の登場
江戸時代になると三重県の松阪で医者をやっていた本居宣長という人物が独自に国学の研究を始めます。
国学とは日本の本来の姿は日本の書物からしかわからないのであって、儒教や仏教という外来の思想をを用いることなく説明しようとするべきであると主張する学問です。
本居宣長はどうやら外国かぶれの人間が嫌いだったようで、江戸時代の日本にとっての外国である中国の思想を排除して日本の姿を検討しようとしたようです。
本居宣長の登場により古事記がの立場が日本書紀と逆転し、古事記が浸透していくようになりました。
国学者本居宣長の主張「古事記の方が日本の古来の姿を正確に伝えている」
本居宣長は日本の本来の姿を研究するには古事記を読むべきだと主張しました。
その理由は日本書紀には大陸に合わせた思想が組み込まれており、古事記の方が日本の古来の姿を残しているからというものです。
ここからは本居宣長がそのように主張した根拠を説明するために日本書紀の一部を紹介します。
①「牛酒を設く」(神武天皇即位前期)
これは牛を食したということを表していますが、当時の日本には牛を食すという文化はありませんでした。
②「神亀を命ず」(崇神天皇の条)
ここでは占いに亀の甲羅を用いたと書かれています。しかし、亀卜は日本ではなく中国の文化であり、当時の日本では鹿の骨を用いた鹿卜が主流であろ亀卜が行われるようになったのは平安時代以降でした。
これらの記述からわかる通り、日本書紀には中国の文献に引っ張られているところが多く日本書紀の内容では日本古来の祭祀の姿が分からないと考えました。これは古事記と日本書紀の編纂理由の違いが関係しているのかもしれません。
中国の文献が参考にされているということは中国の思想が日本書紀に反映されているということです。中国では神と言えば善なるイメージがありますが、日本語でカミというと善悪は関係なく恐れ多い存在が神であるという点が異なるにも関わらず、日本の文化に中国の思想を入れることはふさわしくないと考えたようです。
下記の一文はで本居宣長の記したものです。
すぐれたるとは、尊きこと善きこと、功しきことなどの、優れたるのみを云に非ず、 悪きもの奇しきものなども、よにすぐれて可畏きをば、 神と云なり
本居宣長の試み【牽強付会の排除】
本居宣長の記した『古事記伝』で
「かにかくにこの漢の習気を洗い去るぞ、古学の務にはありける」という言葉を残しています。
牽強付会とはいわゆる”こじつけ”のことで、平安ごろからの神仏習合の流れを経て、天照大御神と大日如来が同一であるとか天之御中主神と妙見菩薩が同一であるとか黄泉の国と地獄は同じであるとか様々な説が唱えられていました。
しかし、元来の日本の思想では当然そのように考えていた人はいないわけで、仏教等と結び付けた説明は単なる牽強付会にすぎないと主張したのです。
古事記の内容を解釈するには古事記を読む、もしくは古事記と同年代の書物を読むしかないということです。
本居宣長の主張に対する反論
本居宣長は18世紀までの日本書紀を主流とする風潮を否定し古事記の重要性を説いたことで多くの批判を浴びせられました。
どのような反論かというと、神道は日本書紀をもとに実践され発展してきたという反論です。
また、古事記の序文には古事記の内容は1説でしかないという注意書きがされており、様々な別伝を記している日本書紀のほうが忠実な記録であるという反論もありました。
他には、本居宣長は黄泉の国を地下にある世界であるという解釈をしていました。古事記には地下であることが断定できるような記述話されていなかったため、これは地獄という仏教を由来とした牽強付会を排除できていないということではないかと反論されることもありました。
黄泉の国の位置についてはこちらのページで紹介していますので、ぜひご覧ください。