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【五穀とは】五穀の種類と穀物の起源・誕生について世界の神話と古事記日本書紀の例を用いて解説

私たちの生活に欠かすことのできない米ですが、神道において米は天上世界である高天の原で行われていた稲作を受け継いだものと言われています。

今回は稲作と五穀の起源についてわかりやすく解説していこうと思います。

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五穀は 米 ・麦 ・粟 ・黍・豆 ・稗などで構成される

五穀は米・麦・あわきび・豆 ・ひえなどから構成されるとされています。

五穀という名前から五種類で構成されていると思ってしまいますが、古事記や日本書紀その他文献には異なるいくつもの記録が残されており5つを確定することはできません

古事記・日本書紀に記述されている五穀については次の段落で資料を用いながら説明しますのでここでは説明を割愛しますが、仏教古典では稲・大麦・小麦・緑豆・白辛子 (『成就妙法蓮華経瑜伽智儀軌』)、大麦・小麦・稲・小豆・胡麻 (『建立曼荼羅護摩儀軌』)とされています。

また、十六穀米という言葉があるように近世になると穀物を5つに分けて考えることは少なくなっていったと言われています。

このように五穀という言葉がありながら、その中身を分類することができないのは稲作を生活の中心としながらもほかの穀物も併せて栽培し食べることで食糧難に備えていたということが考えられています。

記紀から見る穀物の起源 ~スサノオ命とオオゲツヒメ・ツキヨミ命と保食神の物語~

古事記と日本書紀ではそれぞれ異なる五穀の誕生についての内容が記されており五穀の内容も異なります。

たむ
まずは古事記の記述を確認していきます

食物を大気都比売おおげつひめに乞ひたまう。しかして大気都比売、鼻・口・尻より種々の味物を取り出して、種々作り具して進る時に速須佐之男命、その態を立ち伺ひて、穢汚して奉進ると為ひ。その大気都比売を殺したまふ。故殺さえし神の身に生れる物は、頭に蚕生り、二つの目に稲種生り、二つの耳に粟生り、鼻に小豆生り、陰に麦生り、尻に大豆生る。故是に神産巣日御祖神かむすびのみおやのかみ、これを取らしめて、種と成したまふ。

古事記ではスサノオ命が鼻・口・尻から食物を出している大気都比売を汚く穢れていると思い殺害し、その身体から蚕・稲・粟・小豆・麦・大豆ができたと記述されています。蚕は穀物ではありませんが繭絹の原料であり重要なものとされています。

神産巣日神がこれを種としたという記述がありますが、これはムスヒの力、すなわち生成力を用いて種としたとされます。

 

たむ
次に日本書紀の記述を確認していきます。

既にして天照大神、天上にしましてのたまはく、「葦原中国に保食神うけもちのかみ有りと聞く。なむぢ、月夜見尊、就きて候よ」とのたまふ。月夜見尊、みことのりを受けて降ります。已に保食神のもとに到りたまふ。保食神、乃ち首を廻して国にむかひしかば、口より飯出づ。又海に嚮ひしかば、はた広物ひろもの、鰭の狭物さもの、亦口より出づ。又山に嚮ひしかば、毛の麁物あらもの、毛の柔物にごもの、亦口より出づ。くさぐさの物ことごとくに備へて、百机ももとりのつくえに貯へて嚮たてまつる。是の時に、月夜見尊、忿然いかり作色して曰はく、「穢しきかな、いやしきかな、いづくにぞ口より吐れる物を以て、敢へて我に養ふべけむ」とのたまひて、廼ち剣を抜きて撃ち殺しつ。然して後に、復命して、具に其の事を言したまふ。時に天照大神、怒りますこと甚しくして曰はく、「汝は是悪しき神なり。相見じ」とのたまひて、乃ち月夜見尊と、一日一夜、隔て離れて住みたまふ。是の後に天照大神、復天熊人あめのくまひとを遣し、往きて看しめたまふ。是の時に保食神、実に既に唯し其の神の頂に牛馬化為なれりり、額の上に粟生り、眉の上に繭生り、眼の中に稗生り、腹の中に稲生り、陰に麦と大豆・小豆が生りて有り。天熊人悉に持ち去にて奉進たてまつる。時に天照大神喜びて曰はく「是の物は顕見うつくしき蒼生あおひとくさの食ひて活くべきものなり」とのたまひ、乃ち粟稗麦豆を以ては、陸田はたつもの種子とす。稲を以ては水田たなつもの種子とす。又因りて天邑君あめのむらきみを定む。即ち其の稲種を以て、始めて天狭田あめのさた長田ながたう。其の秋の垂穎たりほ八握やつか莫莫然しなひて、甚だこころよし。

日本書紀ではツキヨミ尊が口から食物を出している保食神を穢れていると思い殺害し、その身体から牛馬・粟・繭・稗・稲・麦・豆(大豆・小豆)ができたと記述されています。したがって日本書紀に現れている五穀は粟・稗・稲・麦・豆です。天照大御神はこれらを天上世界に持ち帰って粟稗麦豆を畑のもの、稲を田のものとしてお育てになったとされており、五穀の誕生だけでなく高天の原で稲作が行われているとされる根拠になっています。

ちなみに、この部分は天照大神と月夜見尊が昼と夜という離れた世界に住むことになった所以が書かれている重要な場面でもありますので合わせて覚えておくことをオススメします。

世界の五穀誕生物語 ~東南アジア・ポリネシアのハイヌウェレ型神話~

上の段落では日本の神話における五穀の誕生を紹介してきましたが、神が死にそこから穀物が誕生するという物語は東南アジア・オセアニア・ポリネシアなどに広く分布しています。これらの地域は日本のように温暖湿潤で自然がムクムクと成長してくる点が共通しています。

たむ
ここからは世界の五穀誕生物語の例としてハイヌウェレ型神話と呼ばれている神話を紹介していきます。

ある少女は身体から金を取り出すことができた。あるとき、強欲な人々がハイヌウェレの身体をバラバラに引き裂いて体内の金を取り出そうと殺してしまった。しかし、体内に金は蓄えられていなかった。少女が殺されてしまって悲しんだ親は少女の死体を埋め、そこからタロイモが生まれた。

大地の豊穣に関わる女神を地母神と言いますが、地母神を殺害することで穀物が現れるハイヌウェレ型神話は東南アジア、オセアニア、ポリネシアに分布しており、これらの地域は温暖な地域という点が共通していますね。

 

記紀神話での五穀誕生秘話の持つ意味と解釈

古事記と日本書紀どちらも殺された神によって五穀が誕生しましたが、神が殺されて穀物等が現れるということには隠された意味があると考えられます。

たむ
ここからはなぜ上記のような構成になっているのかを考察します。

まず1つ目に考えられるのは

神の死と穀物の誕生が1年間の穀物の栽培のサイクルを表しているということです。

穀物の栽培は基本的に1年に1回収穫が行われます。稲作を例にすると、春に芽を出した若々しい稲は秋にはたくさんの実りを蓄えて収穫されます。秋になって稲が収穫されると田からは生命力は失われた状態になります。これを死と考えるならば春に行われる収穫は生命の誕生や復活と捉えることができます。

したがって、神の死が収穫・穀物の誕生が田植えを表していると解釈できます。

 

次に2つ目に考えられるのは

強大な自然の力を人間の手でコントロールできる状態にすることを表しているということです。

先ほど地母神が殺されそこから穀物が現れるという神話を紹介しましたが、日本を含めハイヌウェレ型神話が分布している地域は温暖湿潤な気候です。そこには我々人間には制御できない自然の強い力が存在しており人間が生活していくにはあまりに危険だと感じられるでしょう。しかしながらそこには様々な植物が成長しており、地中には芋等を含めた様々な食べることに適したものも存在しています。

このような地域を人間が生活することに適した区域にするためには無理やり植物を伐採し、食べ物を育てるためには焼き畑など自然を取り払うことが必要で、これが地母神の殺害と穀物の誕生と重なります。植物の伐採や焼き畑を行うことは自然を破壊し その土地の生産性を低下させる方法ではありますが、これを行うことで人間にとっては扱いやすい土地となり結果的に多くの実りを得ることができるのです。

 

 

 

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