神道において最も重要な概念のひとつには清浄が挙げられます。神様という神聖な存在と接する祭祀や神社という場所では身も心も罪や穢れのないまっさらな状態であることが望ましいと言えます。
今回は神社において年に二回行われている罪・穢れを祓う神事である大祓についてお話し、そこで唱えられる大祓の覚え方や解釈の解説をしていきます。
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目次
6月の晦日と12月の大晦日の年2回行われる大祓の由来・歴史
大祓とは日々の生活で犯した罪や穢れを年2回(6月末の晦日と12月末の大晦日)祓い清めるために行います。
罪という言葉は過ちと言い換えられますが、過という文字通り過失によるものも罪にあたります。
知らず知らずのうちに私たちは罪を犯しているということです。
祓とは社会的制裁のひとつであった
大祓が始められたのは天武天皇の御代ごろではないかと言われています。この時期には律令体制という律(現代でいう刑法)と令(それ以外の法令)による政治が行われました。律令政治の時代では現在と同じように罪に対して社会的な制裁が行われています。
では律令が定められる前の時代は罪に対しては何が行われていたかというと、祓が行われていました。祓というのは神が人間に対して科するもので罪を除き去ることを言います。具体的には罪に応じた財物を出す方法がとられていました。神が科するものということで当然、個人が課すことは許されていなかったようで、社会的な制裁として行われることになっていました。
前の段落でも述べましたが、記紀では高天の原(天上の世界)で乱暴をし、天照大神が天の岩屋戸に隠れる原因をつくった素戔嗚尊は償いとしてたくさんの財物を差し出したとされています。
大祓は宗教的儀礼となる「大祓という言葉の意味」
ここで律令体制の時代の話に戻りますが、罪に対して法定の罰則が与えられるようになると祓は宗教的儀礼として扱われるようになったのです。前の段落で説明したように祓というのは神が人間に対して科するものであり、神が社会の秩序のために科するものと考えることもできます。
祓という字は通常「はらい」と読むことが多いですが、大祓と書いた場合は「おおはらえ」と読むことが多いです。単に祓というのではなく「大」という文字を加えているのは「大」には公という意味があり社会全体のための行事として行われていたからです。記紀などの歴史書にも国家祭祀として大祓が行われていたことが記述されており、全国の神社で行われているのも社会全体の安寧に奉仕するためとも言えます。
天武天皇の御代にも大祓当日の午前に内裏で天皇・皇后・皇太子の穢れが落とされ、午後には中臣氏が朱雀門で役人や民衆の集めて大祓詞を読み聞かせることで祓を行っており、このことから大祓詞は中臣祝詞とも呼ばれます。
公的行事としての大祓が一般化する一方、一般人の私的な行事としても大祓が行われるようになり大祓詞の文章を多少変更して広く用いられるようになりました。
罪と穢れはもともと異なる概念
冒頭で大祓とは罪と穢れを祓う儀式であると述べましたがもともと罪と穢れは明確に区別されており、
罪に対しては祓
穢れに対しては禊
黄泉の国から帰った伊邪那岐命が筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原(現在の九州か?)で穢れを落とした語られていますが、伊邪那岐命は黄泉の国へ行っただけですので罪を犯したわけではありません。
黄泉の国という死者の国に行ったことで身についた穢れを落とす行為として禊が行われたのです。
しかし、時代が進むにつれ罪と穢れの明確な区別はなくなり、罪と穢れの両方に対して大祓が行われるようになったのです。
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大祓詞とは:全文と訳と解説
①神社本庁大祓詞本文ママ(大文字は太字で表記)
第一段
- 高天原爾神留坐須皇賀親神漏岐神漏美命以知氐
- 八百万神等乎神集閉爾集賜比神議里爾議賜比氐
- 我賀皇御孫命波豊葦原水穂国乎安国登平介久知食世登事依奉里伎
- 此久依奉里志国中爾荒振留神等乎婆
- 神問波志爾問賜比神掃比爾掃賜比氐
- 語問比志磐根樹根立草乃片葉乎母語止米氐
- 天乃磐座放知天乃八重雲乎伊頭乃千別伎爾千別伎氐
- 天降志依奉里伎
第二段
- 此久依奉里志四方乃国中登大倭日高見国乎安国登定奉里氐
- 下都磐根爾宮柱太敷立氐高天原爾千木高知里氐
- 皇御孫命乃瑞乃御殿仕奉里氐
- 天乃御蔭日乃御蔭登隠坐志氐安国登平介久知食左牟
- 国中爾成出伝牟天乃益人等賀過犯志介牟
- 種種乃罪事波天都罪国都罪許許太久乃罪出伝牟
第三段
- 此久出伝婆天都宮事以知氐
- 天都金木乎本打切里末打断知氐
- 千座乃置座爾置足波志氐
- 天都菅麻乎本刈断末刈切里氐八針爾取辟伎氐
- 天都祝詞乃太祝詞事乎宣礼
- 此久宣良婆天都神波天乃磐門乎押披伎氐
- 天乃八重雲乎伊頭乃千別伎爾千別伎氐聞食左牟
- 国都神波高山乃末短山乃末爾上坐志氐
- 高山乃伊褒理短山乃伊褒理乎搔別介氐聞食左牟
第四段
- 此久聞食志氐婆罪登云布罪波在良自登
- 科戸乃風乃天乃八重雲乎吹放都事乃如久
- 朝乃御霧夕乃御霧乎朝風夕風乃吹拂布事乃如久
- 大津邊爾居留大船乎舳解放知艫解放知氐
- 大海原爾押放都事乃如久
- 彼方乃繁木賀本乎焼鎌乃敏鎌以知氐打掃布事乃如久
- 遺留罪波在良自登
- 祓給比清給布事乎
- 高山乃末短山乃末与里佐久那太理爾落多岐都
- 速川乃瀬爾坐須瀬織津比売登云布神
- 大海原爾持出伝奈牟
- 此久持出往奈婆荒潮乃潮乃八百道乃八潮道乃潮乃八百會爾坐須速開都比売登云布神
- 持知加加呑美氐牟
- 此久加加呑美氐婆氣吹戸爾坐須氣吹戸主登云布神
- 根国底国爾氣吹放知氐牟
- 此久氣吹伎放知氐婆根国底国爾坐須速佐須良比売登云布神
- 持佐須良比失比氐牟
- 此久佐須良比失比氐婆罪登云布罪波在良自登祓給比清給布事乎天都神国都神八百萬神等共爾聞食世登白須
②仮名交じり文・現代語訳
第一段(皇御孫神の降臨)
- 高天の原に神留まります皇が睦神漏岐・神漏美の命以ちて
- 八百万の神等を神集へに集へ給ひ神議りに議り給ひて
- 我が皇御孫の命は豊葦原の瑞穂の国を安国と平らけく知ろし召せと言依さし奉りき、
- 此く依さし奉りし国内に荒ぶる神たちをば
- 神問はしに問はし給ひ神掃ひに掃ひ給ひて
- 語問ひし磐根・樹根立ち草の片葉をも語止めて
- 天の磐座放ち天の八重雲を伊頭の千別きに千別きて
- 天降し依さし奉りき。
現代語訳
- 高天の原にいらっしゃる男女の神のお言葉によって、
- 八百万の神が集められ、会議を行い
- 瓊瓊杵尊は豊葦原の瑞穂国(この世界)を平和に治めなさいとおっしゃった。
- 荒ぶる神は
- 次々に問い正され、次々に掃いのけられ
- 騒がしかった草木も ものを言うことをやめさせて、
- 天上の御座所を後にし、空の多くの雲を掻き分けて
- 天上からこの世界に降臨なさった。
第二段(皇御孫神の統治と罪の発生)
- 此く依さし奉りし四方の国中と大倭日高見の国を安国と定め奉りて
- 下つ磐根に宮柱太敷き立て高天の原に千木高知りて
- 皇御孫の命の瑞の御殿仕へ奉りて
- 天の御陰日の御陰と隠り坐して安国と平らけく知ろし召さむ
- 国内に成り出でむ天の益人等が過ち犯しけむ
- 種々の罪事は天つ罪・国つ罪許許太久の罪出でむ。
現代語訳
- 地上の国の中心として大和の国を定められ
- 地下の大きな岩に太い柱を立てて 高天の原に向かって
- 瓊瓊杵尊の宮殿をお造り申し上げ
- 瓊瓊杵尊はここに住み、平和な国としてお治めになった。
- 国の中に生まれてくる人間が 過ち犯す罪には
- 天つ罪や国つ罪などの多くの罪が出てくるだろう
第三段(大祓の実施)
- 此く出でば天つ宮事以ちて
- 天つ金木を本うち切り末うち断ちて
- 千座の置き座に置き足らはして
- 天つ菅麻を本刈り断ち末刈り切りて八針に取り裂きて
- 天つ祝詞の太祝詞言を宣れ。
- 此く宣らば天つ神は天の磐門を押し披きて
- 天の八重雲を伊頭の千別きに千別きて聞こし召さむ。
- 国つ神は高山の末・短山の末に上り坐して
- 高山の伊褒理・短山の伊褒理を掻き分けて聞こし召さむ。
現代語訳
- このように多くの罪が出てくれば 天から伝わった儀式に従って
- 金属のように硬い木を切り 根本を打ち断って
- 台の上に置いて
- 管(すげ)の根元を刈りとり 根本を刈りとり 細かく裂いて
- 天の立派な祝詞を読みなさい
- このように祝詞を奏上すれば、天つ神は天の岩戸の扉を開けて
- 幾重にも重なる雲を掻き分けて お聞きになるでしょう
- 国つ神も高い山や低い山の頂上に登って
- 雲を掻き分けて お聞きになるでしょう
第四段(罪が消えるまでの経緯)
- 此く聞こし召してば罪といふ罪はあらじと
- 科戸の風の天の八重雲を吹き放つことのごとく
- 朝の御霧・タの御霧を朝風・タ風の吹き払ふことのごとく
- 大津辺に居る大船を舳解き放ち艦解き放ちて
- 大海原に押し放つことのごとく
- 彼方の繁木が本を焼鎌の利鎌以ちて打ち掃ふことのごとく
- 遺る罪はあらじと
- 祓へ給ひ清め給ふことを
- 高山の末・低山の末より さくなだりに落ち激つ
- 速川の瀬に坐す瀬織津比売といふ神
- 大海原に持ち出でなむ。
- 此く持ち出で往なば荒潮の潮の八百道の八潮道の潮の八百会に坐す速開都比売といふ神
- 持ちかか呑みてむ。
- 此くかか呑みてば息吹き処に坐す気吹戸主という神
- 根の国・底の国に息吹き放ちてむ。
- 此く息吹き放ちてば根の国・底の国に坐す速流離比売といふ神
- 持ち流離ひ失ひてむ。
- 此く佐須良ひ失ひてば罪といふ罪はあらじと祓へ給ひ清め給ふことを天つ神・国つ神八百万の神たち共に聞こし召せと白す。
現代語訳
- これを神々がお聞きになったならば 罪という罪はなくなり
- その様子は風が幾重にも重なる雲を吹き飛ばすようで
- 朝の霧も夕方の霧も 朝の風、夕の風が吹き飛ばすようで
- 大きい港に居る船を解き放って
- 大海原へ押し放つようで
- 遠く向こうの茂った草木を焼き入れをした鋭利な鎌で刈りとるように
- 残る罪はなくなるでしょう
- このように祓い清めた罪は
- 高い山や低い山の頂上から 流れ落ちる
- 流れの速い川にいらっしゃる瀬織津比売(せおりつひめ)という神が
- 大海原までもっていくだろう
- そして激しい沢山の潮流が渦をなしているところにいらっしゃる速開津比売(はやあきつひめ)という神が
- 飲み込むだろう
- それを息として吹き出すとことにいらっしゃる 気吹戸主(いぶきどぬし)という神が
- 根の国・底の国に吹き放つだろう
- そして根の国・底の国にいらっしゃる速流離比売(はやさすらひめ)という神が
- それをすっかりなくしてしまうだろう。
- このように罪や穢れを祓い清めていただきますことを、謹んでお祈り申し上げます。
大祓詞の解説
第一段
この段落では「八百万の神等を神集へに集へ給ひ神議りに議り給ひて」としているところがポイントです。
もともと伊弉諾尊・伊弉冉尊がこの世界を創った後、天照大神ら三貴子をお産みになった後もそれぞれ高天の原・夜の国・海原を治めさせており、この世界の統治者を決めることはしませんでした。
そこで高天原で多くの天つ神が会議をすることで、この世界の統治者を決定しようとするわけですが、「集へに集へ給へ」、「議りに議り給ひて」と同じ言葉を重ねること何度も何度も検討を重ねたことが示されているのです。
次に豊葦原の瑞穂の国や八百万神が目指した安国とはどのような国なのか。豊葦原の瑞穂の国とは葦の穂の豊かにめでたく生いしげる国すなわち稲が豊かに実り栄える国という意味です。
神漏岐命・神漏美命はこの国を稲が豊かに実る国にしましたがそれだけでは十分ではないということです。ではそれ以上にどのようなことを高天原の神々は望んでおられるのかというと、罪や穢れがなく平和で安泰な国でしょう。生活が豊かになるとするべきことをおろそかにしてしまうのは現代人も古代の人も同じです。与えられた生活にあぐらをかくのではなく、秩序を保って生活することで豊葦原の瑞穂の国をさらに反映させていくことが必要なのです。
第二段
「斯く依さし奉りし四方の国中と大倭日高見の国を安国と定め奉りて」という部分では皇御孫命が安国としたのは「四方の国中」とあるが、これは御皇孫命が安国とできたのは皇御孫命がいらっしゃる国がけであって、そのほかの部分は未だに荒ぶる神々がはびこっていたということを示します。
皇御孫命の力では豊葦原の瑞穂の国すべてを安国とすることができないため、民が協力し合うことが重要ということです。事実、神武天皇の東征以降、数代にわたっても国土すべてを統治することは叶わず日本は荒れた状態が続きました。これも我が国の安寧のためには社会の清浄、さらには社会の構成員である私たちの清浄と協力が必要であるということを示すものです。
また、スサノオが高天の原で罪を起こしたように神も罪を犯しうるのであるから、我々人間が罪を犯してしまうのも当然であるともいえます。
したがって、天つ罪・国つ罪といったすべての罪を反省し生かしていくことが最も重要であると言えるのです。
第三段・第四段
この段には罪・穢れが払われる方法について述べられており、「天つ祝詞の太祝詞言を宣れ」というのは天の立派な祝詞を奉れということです。
さきほども述べたように、神であっても罪を起こしてしまうのだから人間が罪を犯してしまうのも当然であると言えます。
しかし、それらの罪を放置しておけば安国を作り上げることはできません。そこで天津祝詞奏上し、八百万の神にお願い申し上げればすべての罪を祓い清めてくださるということです。
大祓詞をできるだけ早く覚えるコツ
大祓詞はご覧の通り長く覚えることは難しいように思うかもしれません。
実際、覚えようとしてみると非常に苦しいです...(笑)
ポイントの1つ目
大祓詞は単なる文章の羅列ではなく物語になっています。文章を長々と覚えようとするのではなく、1つの物語として現代語訳で理解してから暗唱することが重要です。多くの場合は大祓詞を上記のように4~5つの場面に分けることが多いです。また、吉田神道では大祓詞を12個の場面に分けて考えています。(たとえば1場面目は1段落目1~3)
さらに、解説を読むことでより大祓詞が言わんとすることを理解しやすくなります。以上のように考えることで、物語のイメージをつかみやすくなるのでお勧めです。
ポイント2つ目
文末と文頭と助動詞に注目しましょう。
例えば「天降し依さし奉りき。」には「斯かく依よさし奉まつりし」が続きます。
似た文言が続けられていることが分かります。
また、どちらの文章も文末は過去の助動詞「き」が用いられています。文末は「し」か「き」かで迷う方が多くいらっしゃいますが、助動詞「き」の活用形を思い浮かべて、そこで文章が途切れるなら終止形「き」、そうでないなら連体形「し」を用いると覚えておきましょう。
ポイント3つ目
何度も何度も唱えることが重要です。
大祓詞は6月と12月の末に唱えるものと思われがちですが、伊勢の神宮では祈年祭や神嘗祭、新嘗祭などの神事の前月にも必ず大祓が行われており、一年中唱えることのできるものです。
また、罪・穢れは知らず知らずのうちに身に着けてしまうものです。年に2回なんて言わずに、いつでも何度でも大祓詞を唱えることで自身を見つめ直し、心身を清浄に保つことが自分自身のため、さらには社会全体のためにもつながっていくと思います。
ポイント4つ目
今では大祓詞と検索すればYouTubeで大祓詞がたくさん上がっています。歌を聴いているうちに自然に覚えるように通勤通学中に聞くことで徐々に頭に入ってきます。YouTubeでの音源を保存するなどして繰り返し聞きましょう。